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東京地方裁判所 平成7年(ワ)8528号 判決 1996年3月19日

原告 城南信用金庫

右代表者代表理事 真壁実

右訴訟代理人弁護士 市来八郎

亀井時子

浅井通泰

被告 西田一郎

右訴訟代理人弁護士 植木植次

主文

一  被告は原告に対し、金七五〇〇万円及びこれに対する平成七年一月六日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨。

第二事案の概要

一  請求原因

1  原告は、昭和四二年五月一五日、訴外有限会社アンローブ(組織変更により株式会社アンローブ。以下 訴外会社という)との間で、手形貸付、証書貸付等の取引きに関する信用金庫取引約定を締結した(≪証拠省略≫。以下本件契約という)。本件契約においては、訴外会社が、原告に対する債務を履行しなかった場合には、支払うべき金額に対し、金一〇〇円について一日金四銭(現在は、年一四パーセント、三六五日の日割計算)の割合による損害金を払うこと、訴外会社が、手形交換所の取引停止処分を受けたときは、原告からの通知、催告等がなくても原告に対する債務について当然に期限の利益を失い、直ちに債務を弁済すること等が約された。

被告は、右同日、訴外会社が原告との取引きによって負担する一切の債務について、訴外会社と連帯して保証することを約した(以下 本件連帯保証契約という)。

2  原告は、本件契約に基づいて、訴外会社に対して、次のとおりの貸付を行った(以下 本件貸付という)。

(一) 手形貸付により、平成三年八月二九日に金二〇〇〇万円を弁済期限平成三年一一月一八日、利息年八・五パーセントの約定で貸付けた。

その後、原告と訴外会社間において、手形の書換えにより返済期日が一八回変更され、平成六年一二月二六日に右貸付金の返済期限が平成七年一月五日と定められたほか、利息は年六・三パーセントと変更する旨の合意が成立した。

(二) 手形貸付により、平成三年一一月一八日に金五五〇〇万円を弁済期限平成四年二月二〇日、利息年八・三パーセントの約定で貸付けた。

その後、原告と訴外会社間において、手形の書換えにより返済期日が一七回変更され、平成六年一二月二六日に右貸付金の返済期限が平成七年一月五日と定められたほか、利息は年六・三パーセントと変更する旨の合意が成立した。

(三) 証書貸付により、平成四年一二月三〇日に金九六六六万八〇〇〇円を返済期限平成五年四月一日、利息年六・二パーセントの約定で貸付けた。

その後、原告と訴外会社間において、返済期限を平成五年四月九日から平成六年一二月二〇日までの間に六回変更し、平成六年一二月二〇日に右貸金の返済期限は、平成七年六月一〇日と定められたほか、平成六年一二月二一日以降の利息についても年六・三パーセントと変更する旨の合意が成立した。

3  訴外会社は、平成七年三月七日、東京手形交換所から取引停止処分を受けて倒産したので、本件契約にしたがって右(三)の貸付金についての期限の利益を失った。

よって、原告は、被告に対して、訴外会社の残元金の合計金七五〇〇万円及びこれに対する前記(一)及び(二)の期限の経過後である平成七年一月六日から支払い済みまで年一四パーセントの割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認め、同2及び3は知らない。

2  被告は、訴外会社の取締役の地位にあり、訴外会社の経営に関与しており、その経営状態からみて信用に不安がなかったことから本件連帯保証契約を締結することを承諾したものであるが、その後、訴外会社の経営をめぐって経営陣に意見の対立が生じたため、昭和五八年一〇月に取締役を辞任して訴外会社を退職した。その際、被告は、原告に対しては、訴外会社の取締役を辞任して訴外会社との関係を一切絶ったことを告げた。

被告は、原告から平成七年三月一三日付で被告が訴外会社の本件契約について連帯保証人として署名押印をしているとして本件借入金の支払いを求められたが、既に、被告が原告との間で本件連帯保証契約を締結してから約二八年余が経過しており、訴外会社の取締役を退職した旨を知らせてからも一一年余を経過していること、被告が訴外会社を退職した旨を原告に通知した当時は、訴外会社の経営は順調で借入金も不当に多額ではなかったこと、退職後の訴外会社の経営、資産信用状態、金融の事情等については全く知ることが出来ない状況にあったこと、原告からも訴外会社との取引状況については何らの通知も受けていないこと、原告は訴外会社に対して、平成二年から平成四年にかけて合計金二億四〇〇〇万円という多額にのぼる貸付けを行っており、このことは訴外会社の経営が急速に悪化したものであると考えられること等の事情に照して、原告が被告に対して、本件連帯保証契約に基づいて連帯保証人に対する本件請求をすることは信義則に反している。

第三争点に対する判断

一  請求原因2及び3は、≪証拠省略≫により認められる。

二  被告は、本件連帯保証契約に基づいて連帯保証人に対する本件請求をすることは信義則に反する旨を主張する。

本件証拠(証人昼間政夫、被告本人、≪証拠省略≫)によると、被告は、昭和四二年五月一五日、訴外会社が原告との間で、本件契約を締結した際、当時の訴外会社の代表取締役であった西田武男と共に連帯保証人となり(≪証拠省略≫)、その後、昭和五三年一一月二〇日、原告と訴外会社との間の右信用金庫取引約定書の一部を変更することを承諾する旨の証と題する書面の連帯保証人欄に記名押印して原告に差し入れたこと(≪証拠省略≫)、被告は、昭和五八年一〇月二九日、経営についての意見の対立から取締役を辞任して訴外会社を退職したこと(同年一一月九日に退任登記。≪証拠省略≫)、被告は、右退職に際して、原告に対して訴外会社を退職した旨の挨拶をしたが、本件連帯保証の責任については何ら言及をしなかったこと、本件連帯保証契約は、訴外会社と原告の本件契約に基づく取引きから生じる一切の債務について保証するもので、その責任の範囲については、手形割引、手形貸付、証書貸付、当座貸越、債務保証その他一切の取引きから生じた債務の履行と定められており、保証の範囲及び保証期間等について明確な期限の定めはなされていないこと、原告は、訴外会社との本件契約に基づいて、訴外会社からの融資申し込みに対して、本件貸付けの実行を行ったこと(≪証拠省略≫)の各事実が認められる。

右事実によると、本件貸付は、いずれも原告と訴外会社との間で締結された本件契約に基づいて本件貸付けの実行を行ったもので、訴外会社からの右融資申込みについて、原告は、訴外会社の提供した担保の内容や定期預金等を調査した上で融資の実行を行っており、この間、訴外会社の経営が悪化し倒産の危機が予測されるのに安易な融資を行ったとか、もっぱら被告の連帯保証人の責任に依存して訴外会社の担保力や返済能力を越えた融資の実行を行ったというような事情は認められず、いずれも取引の通念上相当と認められる範囲内の貸付けであることが認められる。また、本件連帯保証契約は、昭和四二年五月一五日に締結されたもので、締結後、既に約二八年が経過しているが、この間、被告が、本件連帯保証契約を解約する等の告知をしたともないし、訴外会社を退職する際にも、訴外会社を退職するとの挨拶をしたのみで、右退職に至る間の事情を話したとか本件連帯保証契約の解約告知をした事実も存しない。したがって、原告が、被告が本件契約の連帯保証人の地位にあるとして処理をしたとしても無理からぬことであり、被告の主張する事実を前提としても、原告の被告に対する本件請求が信義則に反するとか権利の濫用に該当するものであると認めることは出来ない。

また、原告が訴外会社に対して本件貸付を実行した当時は、訴外会社の定期預金及び定期積立預金は融資合計額を下回っていたが、訴外会社が平成七年三月七日に東京手形交換所から取引停止処分を受けて倒産するまでの間、原告との取引きは円滑に行われており、訴外会社の経営が困難な状況にあったとは認められない。

二  右事実によると、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 星野雅紀)

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